12月7日(水)
毛布にくるまれクレーンで吊り上げられ、救急車までは歩いていった。
救急車は小学生の頃、風呂場で滑って後頭部があ―――――した時以来だった。
こんなにねごこちのいい場所があるんだ…とびっくりしたが単に血が抜けすぎて気持ちよくなっていただけかもしれない。
すっかり血がだめになってしまいとりあえず医者になるのはむりだな…と幼心に思ったものだった。
カラスのふんやら屋根の雪やら、今思えば当時私は後頭部に何かを喰らいまくっていた。
洗濯バサミみたいな血圧計？を人差し指にはさまれ、他に誰か乗っていなかったかを念入りに聞かれた。
しばらくして病院に到着。
お湯の入ったペットボトルを当ててくれたり、久しぶりに人と喋ったのが嬉しかったりありがたかったり人の優しさが染みた。
骨折したことないのだけが取り柄だったのになぁとか、もうバッセン行けないのかなぁとかいろいろ考えた。
この前ちょっと遠出したらすぐへばってしまったので、体力をつけようと思って最近通っていた。
ずっとやってるとだんだん打てるようになってきて楽しかった。
顔と左手は切り傷だけなのでそのうち治る、右腕は肘から先の、2本あるうちの骨の1本が折れてズレていた。
来週手術。
12月8日(木)
通院。
会社の人の車に乗せてもらいつつ身の上話をした。
ちょっと貯金してどっかに引っ越す予定だったと話した。
その人はしばらく都会に行って、結婚を気に戻ってきたらしい。
理想的ですねと相槌を打つ。
そういう願望はないのか聞かれたので、とにかくお金を稼がないことにはなんともと返したら、案外どうにでもなるよ、式も挙げてないと言っていた。
この前ラジオで聞いた、式場でドレスの試着が出来る話をした。女性はやっぱり着たいんじゃなかろうか。
腹ペコだったので待ち時間に病院内のコンビニに行った。
CCレモンを2本買うと、松岡修造のカレンダーがついてくるらしい。
2017年は来てほしくなかったので買わなかった。
待合室でパンをがっついていると、どこからともなく現れたおばあさんがコーンスープをくれた。
温かかった。
手術の説明を受けて帰る。
開いてプレートでくっつけて閉じるらしい。
12月12日(月)
通院。顔を縫った部分の抜糸をしてもらう。
久しぶりに鏡を見たら、よほどしたたかにぶつけたのかカエルみたいな顔になっていた。
帰りの電車のボックスシートで、降りる時向かいの人がよけてくれたのが嬉しくてもう5日くらい生きてようと思った。
12月14日(水)
通院。また会社の人に送ってもらう。
地元の話になり、限界集落で隣の隣の集落がテレビに出たとか、病院が一番繁盛してるみたいな話をした。
この日は特に診察はなく、明日の麻酔の説明を受けて帰った。
それだけで6時間も経っていたのでやっぱり繁盛してるなと思った。
帰りも会社の人が駅まで送ってくれた。
お礼にCCレモン2本と松岡修造のカレンダーを贈った。
12月15日(木)
手術には付き添いが必ずいるらしい。
例えば容態が急変してもうダメな時、蘇生をやめてもいいか聞くために必要なのかなぁ…と昔見たドラマを思い出した。
遠路はるばるおじさん(おばあちゃんの兄)が来てくれた。
『どおしたあ？』『(事故の時)寝とったんかあ？』といつものおじさんでとにかくありがたかった。
無事こうてつプレートが埋め込まれ多少右半身が重くなった。
斜向いのベッドで、付き添いに来たらしい奥さんが『夜だから静かにして･･･』と旦那さんにしきりに語りかけていた。
お前だよ･･･帰れよ･･･身体が動かせないのと腕がめちゃくちゃ痛いのもあいまってかなりまいった。
夜中、看護師さんが定期的に血圧かなにかを測りに来るのがぼんやりわかった。先輩も毎日こういう仕事をしてるんだろうか。
私も人の役に立てる仕事を目指せばよかった。
12月16日(金)
あさ。
36時間ぶりのご飯はおにぎり、白菜のみそ汁、ハム2枚、なめこ、ほうれん草のおひたし、牛乳、みかん。
おいしかった。
体調がよければ帰れますがどうします？と聞かれた。
昨日受付の奥の方でベッドの空きがない話をしていたのを思いだし、帰ることにした。
脂汗かきながらバスと電車を乗り継ぎどうにか帰った。
夏に買った靴は雪と泥でぐずぐずになっていた。
痛み止めを飲んで寝た。
12月18日(日)
当日着ていた服をようやく袋から出した。
海が腐ったような、変な絵の具のような臭いがした。
カビかなんかで洗濯しても臭うタオルは、あっついお湯につけるとよくなる(知恵袋)。
上着は色移りしてダメそうだったが、ズボンは洗えばまだ履けそうだった。
しかし下着のシャツをめくったら裏地に細かいガラスがびっしり張り付いていて気持ち悪かったので結局全部捨てた。
