一人と一人(5)


死にたいと思うのは、悩みを解消できないからだ。終わりの見えない不安にずっと苛まれながら生きていくのが辛いからだ。

だからといって、本当に死ねるわけがない。どうしたってブレーキをかけてしまう。前にも後ろにも進めなくても、止まることはできる。そしていつかは好転すると思っている。いつかは幸せになれると信じている。









7月3日

○○屋の看板。私の名字も○○っていうんだ。水族館を後にした私たちは、カラオケに寄っていつものゲームをやることにした。3対3の陣取りアクション。各々スマホを取り出す。


私は足を引っ張るのが怖くて、今日までほとんど知り合いと一緒にプレイしなかった。共通点が一つしかない時、その一点での評価がすべてになってしまう。


S9ランクの立ち回りはどんなもんなのか。ついていけるのか。3分後、ステージは血の海と化していた。殺し屋や魔法少女が出てくるゲームだが、そこにいたのは殺し屋の魔法少女だった。うまいことおんぶにだっこして、6戦5勝といい感じに終えることができた。


せっかくだし何か歌う? 彼女は首を横に振った。私はさっきのゲームの曲を歌った。ああ、つまらない人生だ。


この世界で一人・・・


京都駅16時半。店を出る頃にはもう完全にお通夜ムードになっていた。もうすぐ帰らなきゃいけないと思うと湿っぽい感じの曲しか思いつかなかった。やれ二人ここから逃げ去ってしまおうだの、同じ星が見たいだの・・・あっさり素の自分が全部出てしまった。


あまりに聴くに堪えなかったか、それとも明日からのことを思い出してしまったのか、昨日までの彼女に戻ってしまったようだった。そうだ、実際のところ問題は何も解決していない。身近な誰かに何でも話した方がいい。お兄さんとかお姉さんとか・・・。


返事はなかった。だめか。自分がしもしないことを勧めている。私も悩みごとは誰にも話さない。話したところでどうにもならない。誰に泣きつくこともない。心の一番深いところでは人間が嫌いなんだ。自分をこんな気持ちにさせるこの世のすべてが。
中央口左手のエスカレーターを背に二人黙って立っていた。格子状の高い天井を見上げながら、高校生の時来たのはこっちの入り口だったのか・・・じゃなくて。




―今日は楽しかった。ありがとう。




確かに楽しかった。今日は。
今日が終わって、明日はどうなる?


私たちのような人間は、どういうわけかニュートラルの状態が負の方向に傾いている。楽しいことがもうなにもなくていいから、苦しいことを全部なくしてほしい。今まで味わったすべての喜びより、苦しみの総量の方が明らかに多い。そう思い込んでいるだけだと分かっていても、この感情を振りきることがどうしてもできない。


死ぬのをやめてほしかった。でもそれは私のわがままで、彼女の意思とは関係なかった。私が彼女の立場だったら同じことを考えていたと思う。


でも私自身は今のところ死にたくない気分だった。それは目の前に彼女がいるからでもあって、言いたいことがまとまらない。とにかく、彼女がいなくなるのは考えられない。絶対嫌だった。
‥さんは聡いから、適当なこと言っても嘘だってバレちゃうかもしれないけど。前置きをして、今日一日一緒に過ごして、かわいくて好きになった。あなたがいる限り私もいることにする。二つ伝えた。







―ずるいよ…。











その6に続く